詩集「八月の青い空」或る予感

或る予感

 空はどこまでも青く晴れ渡っている
 校庭一杯に黄色い花の絨毯が広がっている
 が 
 校舎に子らの声はない
 風さえも静まりかえって音を消している

 鋼鉄の肌を青黒く光らせながら
 蒲公英の黄色い絨緞の真ん中に
 彫塑像のように戦車が鎮座している

 「軍国主義者は小学校を狙う」

 蒲公英たちは
 ケラケラと笑いながら
 代わるがわる
 興味津々の
 綿毛を飛ばして
 戦車に群がるが
 戦車はただ沈黙している

 綿毛は鋼鉄の肌を滑り落ち
 子らの歓声のように
 無限軌道に降りつもる

 突如として始業の鐘が鳴り
 戦車は砲塔を回した
 校舎の塔に掛かる時計に照準を定めたまま
 また沈黙した

 「軍隊はいつか必ず 自国民に銃口を向ける」

 子らの声よ戻るな
 そのまま戦車が沈黙しつづけて
 時が過ぎ
 無限軌道(キャタピラー)が立体花壇になり
 鋼鉄の塊が黄色い花たちに埋もれて
 青黒い肌が茜色になるまで
 校舎に子らの声は戻るな

 それまではただ
 蒲公英たちが
 興味津々の綿毛を
 飛ばし続けていてくれればいい
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