デトロイト市立美術館のジャパンギャラリー
管見耄言-17.
赤澤経済再生担当大臣が帰国した。彼にはトランプに会う前に行ってもらいたいところがあったのだが、今後、日米関税交渉に際に渡米する日本の特使に行ってもらいたいところでもある。
2013年のことだが、その年デトロイト市が180億ドルの負債を抱えて財政破綻した。当然ながら、市立のデトロイト美術館(DIA)は学芸員を含めたスッタフの給料も払えなくなった。それどころか市議会では所蔵の美術品を売って、財政再建の一助にするべきという論議さえされる始末だった。それを救う一助となったのが、日本の自動車産業界だったということはあまり知られていない。
デトロイトは自動車産業の聖地であるが、財政破綻は自動車産業が国際間競争に負けたからではなかった。自動車産業を支えるための労働者として黒人を中心として人口が急増し、ピーク時には185万人にまで達した。そのことに嫌気を刺した中間層を中心に近郊の都市への転出が急増し、それに追随する形でビッグスリーは自動車工場を移転させていったのだ。
さらに黒人労働者差別への反発からの暴動などで治安が悪化し、人と工場の転出にさらに拍車がかかり、人口は財政破綻前65万人にまで落ち込んで、荒廃の一途をたどっていたのだ。その間、市当局は治安対策は州政府任せだったし、市への新たな産業誘致や地場産業育成策をとっていなかった。
流石に所蔵の美術品を売って財政再建に充てるという話は、多くの良識ある市民の反対によって断ち切れとなったが、そこには日本の企業の支援があった。トヨタの現地会社が100万ドルの支援を表明したことに続き、デトロイト日本商工会所属の日本企業21社が、最終的に総額320万ドルを超える額を集めて美術館に寄付し、その75%を人件費など直接美術館経営支援に、残りの25%は日本人の絵画などの美術工芸品の収集に充てられることになった。お陰でスタッフは解雇されなくて済んだばかりか、老朽化した設備の更新も進めることができた。財政破綻の前には日本から来た収蔵品が数年しかなかったが、寄付金や作品寄贈で2017年にはジャパン・ギャラリーを開館するまで、コレクションを充実させることが出来た。
程度の低いリーダーはとかく外に敵を作って、その敵の存在をプロパガンダに利用しようとする。トランプはデトロイトがラストベルトの象徴となったのは、日本のアンフェアな対応があると言い募っている。だからこそ、デトロイト美術館にまつわるこの話は、日米共にもっと周知されてもいいだろうし、少なくとも日本から日米関税交渉に出向く使者たちは、ワシントンに入る前にデトロイト日本商工会のメンバーに案内してもらって、日米のメディアを引き連れて、デトロイト美術館のジャパン・ギャラリーを訪問してもらいたいものだ。