詩集「八月の青空」悲しみのアラビアンナイト

悲しみのアラビアンナイト

うちつづく憎しみの砲撃に破壊された
悲しみのまちのがれきの中
ねぐらのランプを失った
気のいい巨人が
自分の体を木っ端微塵に吹き飛ばした
哀れな若後家の
せめて小さな心臓のかけらでも
見つけてやろうとうずくまる

暗視ゴーグルを装備した
盗賊の手下たちは
血眼になってアリババを探す
それでも彼らの耳には幽かではあるが
それぞれのふるさとの
箸が転んだと言って笑う
娘らの声が聞こえている

無人の魔法の絨毯は
テロリストの姿を求めて飛び回る
冷徹なレンズに映るものは
屋根を吹き飛ばされた部屋で
腹を減らして泣き疲れた子らの寝顔と
涙を枯らして仕方なしに
心もとなげに微笑む母親の姿

魔王に魂をわしづかみにされた人間どもが
必死になって悪意に満ちた千夜一話を紡ぎ
怒号と泣き叫ぶ声を
空と地を揺るがす爆音を
はらわたを直接圧迫する爆発音を
物語の効果音にする

そうして
ハムラビの末裔たちの
悲しみのアラビアンナイトは
果てしなく続く

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