童話集おとうさんおかあさんお話よんで

パパとママはコロナバスターズ

「ハナちゃん、ごめんなさいね。パパとももう長いことお話できていないのに、ママもおうちに帰れなくて、本当にごめんなさい」

 おばあちゃんのスマホの中のママは、いつもの真っ白な服の上から、青い大きなエプロンをしています。ハナちゃんはママともう何日も会っていません。代わりにおじいちゃんとおばあちゃんがおうちに来てくれていました。スマホの中のママの顔を見て声を聞いたら、いつも泣きそうになります。でも、がまんしています。ハナちゃんが泣いたら、ママは心配になるし、おじいちゃんとおばあちゃんもがっかりするかもしれません。

「ママぁ、頑張ってね。ハナちゃんはお利口にしているよ。大丈夫だよ」

 ハナちゃんは元気そうにそう言いました。ママが安心してお仕事に頑張れるようにと考えたのです。

 でも本当はハナちゃんの毎日はつらいことばかりでした。

「お母さんがね、ハナちゃんと遊んじゃだめだって」

「お前のママはコロナだろう。うつるかもしれないから、そばに来るんじゃない」

「ハナちゃんのパパはいないんだよぉ。どこか遠くの国に行って、帰ってこないんだって」

 保育園の友だちはみんな、ハナちゃんを怖そうに見るだけで、だれも一緒に遊んでくれません。お迎えに来たおばあちゃんの話を聞いたおじいちゃんは

「そんなかわいそうなことがあるか。今から行って文句を言ってやる。ハナの両親は、みんなの命を救うために戦っているというのに、どうしてハナがのけ者にされるんだ」

怒ってそう言いました。

「だめですよ。おじいちゃん、そんなことをしたら、ハナがもっとつらくなります。ハナだってがまんしているんですから、一緒に我慢しましょう」

おばあちゃんはそう言ってくれました。

「ハナ、保育園なんか行くことはない。おじいちゃんとおばあちゃんがいる。おうちで遊んでいればいいんだ」

ハナちゃんが可愛くてしょうがないおじいちゃんは、ハナちゃんのことが心配で、どうしたらいいかわかりませんでした。

 春が来て、ツバメが高く低く飛ぶようになりました。でもやっぱりハナちゃんはひとりぼっちで遊んでいました。

 そんなある日、ひな先生がみんなに紙芝居を読んでくれました。世界中の人々の命を、コロナ魔王から守るために戦っているコロナバスターズのお話です。

「ハナちゃんのパパとママは、みんなの命を守るために戦ってくれているコロナバスターズです。ヒーローなんですよ」

ひな先生はそう言ってくれました。

 そうです。ハナちゃんのパパとママはお医者さんでした。パパは遠くの戦争中の国で、その国のかわいそうな子どもたちをコロナから救うために戦っていました。ママは大きな病院でコロナにかかった人の命を救うために頑張っています。

 二人ともコロナの病気にかかるかもしれないので、何より大切なハナちゃんを守るため、家に帰らないでお仕事をしていたのです。

 友だちはみんな顔を見合わせていました。そして、少し離れたところに座っていたハナちゃんの周りに集まって

「ごめんね、ハナちゃん。ハナちゃんはヒーローの子どもだったんだ」

「また、一緒に遊ぼうね」

 口々にそういって、ハナちゃんの手を取ってくれました。その話を聞いたおばあちゃんは、うれしくて涙を流しましたが、ハナちゃんは泣きませんでした。

 秋になり、ツバメが南の国に帰る支度をはじめました。その日、長い間連絡のなかったパパからハナちゃんに手紙が来ました。

「ながいあいだ、ハナをひとりぼっちにしてごめんね。ようやく、このくにのびょうきがおさまったので、ちかいうちにかえれます。おみやげをたくさんもってかえります」

手紙にはそう書いてありました。ハナちゃんはパパが元気で帰ってきてくれたら、お土産なんかいりません。パパの手紙を、ベッドの横のパパとママの写真の前に置きました。

 うれしいことは次々にやってきます。その日、ハナちゃんはおばあちゃんの車で久しぶりにママの働く病院に行きました。病院の駐車場で車から降りたハナちゃんの背中を、おばあちゃんがやさしく押しました。少し離れたところに、ママが立っていました。ママもやっとお休みをもらえるようになって、ちゃあんと検査をしてコロナにかかっていないことを確認してから、病院の外に出ることができたのです。コロナの担当のお医者さんが新しく来てくれたそうなのです。

 ハナちゃんははじめはゆっくりと歩き始めました。なんだか夢を見ているような気がしたのです。でもすぐに走りだしました。そして、ママの腕に中に飛び込みました。

 言いたいことはいっぱいありました。でも、ハナちゃんは、何も言うことができませんでした。そうです。ハナちゃんは初めて、思いっきり声を上げて泣いたのです。

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