ステイホームウイークスー5

5.コロナがもたらしたもの

 新型コロナ感染症に対して、世界中がパニックを起こしています。確かにパニックになる事態だということは論を待ちません。疫病に対する恐怖の要因はいくつもある上に、それが複雑に絡み合っているのですから。欧米のリーダーたちは今回のコロナ禍を「戦争」だと譬えています。確かにわたしたちは見えない敵と戦うことを強いられています。しかし、戦争だと言ってのけることにわたしはどこか抵抗感があります。

 欧米の政治家たちの喧騒は、まるで戦時下のようでした。しかし、戦争は人間同士が殺しあうものであり、憎みあうものです。戦争戦争とことさらに言いつのるのは、自分に国民の不信や不満が集中するのを回避したいからではないかと疑ってしまいます。国家間を分断し、相互不信を招こうとしている事だけは、確かに戦争の産物に似ているのかも知れませんが。

 それでも冷静になって考えれば、今回の疫病の原因がウイルスであり、誰か、あるいはどこかの国に責任を押し付けることが出来るようなものではないことぐらい誰でもわかることです。確かに人類はSF映画の「ザ・デイ・アフター」や「エイリアン」「プリデター」のように不条理でしかも目に見えない敵を相手にしています。だからこそ、人類がワンチームにならなければならないはずです。国家間や、人種間、宗教間、あるいはイデオロギー間のいさかいをしている場合ではないのです。

 実は疫病による犠牲者の数は戦争よりもずっと多かったと、人類の歴史が教えてくれています。さらに、戦争ならば、多くの戦争ならば敗者とともに勝者もいます。戦争そのものはそれがどんなに悪であっても、戦争に勝った側にとっては、自分たちの正義を具現したという達成感を感じたり、新しい領土、賠償金や獲得権益など経済的なメリットの恩恵も受けるかもしれません。何より戦争を指導して戦勝に導いたリーダーは、覇権を確立することでしょう。だからこそ、戦争をしたがる政治家が後を絶たないのかも知れません。

 しかし、疫病を相手の戦いに「勝者」はいません。目に見えない敵に突如として攻撃されますし、その攻撃目標に国境も人種も、老若男女も貧富の差もありません。立ち向かうための武器を準備しておくことは不可能ですし、停戦協定や降伏によって終結するということは望めません。しかも、疫病の攻撃は繰り返され、そのたびに多くの犠牲者をだして目を覆うような悲劇を繰り広げることになります。

 さらに不幸なことには医学的な命の危険だけではないということです。もちろん、わたしたちの不安と苛立ちは防御法も治療法もなく、知らぬ間に体内に侵入し死に至らしめる見えない敵、ウイルスにあります。しかし、その不安といら立ちは社会的に増幅されて、必要以上の恐怖、いら立ちを引き起こし、それによって誰かのせいにしたり、他者を攻撃してしまったりします。そしてそれがまた、社会的な不安や苛立ちを増幅してしまう悪循環さえ繰り広げられているのです。

 コロナ禍は世界中で、これまで人々が見ることが出来なかった社会の矛盾や、政治家の能力などを白日の下にさらすことになりました。日本では政府のトップがコロナ禍が始まる前からデータの改ざんや隠匿を繰りかえしてきたため、政府の施策やコメントに対する国民の信頼を失わせてしまいました。医療分野だけでなく社会経済的な大ダメージを小さくすることもできなかった現政権の迷走ぶりに、多くの国民があきれ返っています。水際作戦での侵入を防ぐことに失敗したのは、外交日程への配慮から対応を遅らせてのではないか、蔓延防止に有効な手段を打ち出せなかったのは、オリンピック開催への影響を恐れたからではないか、検査体制や診療体制が遅々として進まなかったのは、過去の民主党政権の施策を認めたくないという面子にこだわったからではないかなどなど、国民の疑いがじわじわと広がっています。医療崩壊を心配する医療現場の悲鳴もまた、わたしたちをさらなる不安に陥れました。

 国や首都圏の政治リーダーに対する不信と不満は、国民をパニックに陥れ、トイレットペーパーの買い占めに走ったり、風評に惑わされてわたしたちの命を守るために頑張ってくれている医療関係者の子どもが、保育園に通うことが拒否されたりしました。一方で、自粛要請に従おうとしない一部の人々の存在と、それをむやみに避難する「自粛警察」などです。  政府による非常事態宣言が解除され始め、一応収束への出口が見えてきました。しかし、繰り返しますが疫病の攻撃は我々の油断を見計らって繰り返してやってきます。しかも、致死性の疫病はCOVID-19だけではありません。今後とも、どんな新しい見えない敵が攻撃を仕掛けてくるか、常にその影におびえながら、その恐怖とさえ共存していかなくてはならないという事を、わたしたちは肝に銘じなくてはならないのかも知れません。

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